サムシング・フォー ~花嫁に贈る四つの宝物~

サムシング・フォー ~花嫁に贈る四つの宝物~

last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-05
Oleh:  安井優Tamat
Bahasa: Japanese
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――探しものはお前だ、ミア・シファ。お前を俺の嫁にする。  砂漠に囲われた国、サラハ。そこで育った傍若無人な王子マリックはある日、旅商人のミアに一目惚れをする。  権力を使い、彼女を無理やりに連れ帰ったマリック。だが、聡明なミアはマリックの妻になる条件を持ち出した。  ミアが望むもの三つを手に入れてくれるのなら、花嫁になるというものである。  人の命と引き換えに採掘される宝石、水没した文明都市にある月、砂漠の中に潜む一粒の青い砂。  簡単には手に入れられない宝を所望されたマリック。  しかし、初恋の相手・ミアを易々と諦めることなどできるはずがない。  マリックは愛する彼女を花嫁にするため、宝を探すことを決意するが……!?

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サムシング・フォー #1-1
 サラハは砂漠に湧き出た泉を中心としてできた国である。  砂漠の中心にありながら東西南北の大きな国々の交易路として栄えてきた。  その昔、サラハは国々を渡り歩く旅商人たちが休むためのオアシスであったが、そこに定住するものが現れ始め発展したのである。  今、そのサラハを統べるのはサーラの一族だ。交易や観光で得た金銀財宝を肥やしに成り上がり、国家の繁栄とともに王権は十三代にわたって続いている。  周囲に国がないため侵略に怯えることも争いが起こることもない。周囲を砂に囲われ行く当てのない民たちは当然反逆を企てることもない。オアシスに湧く水を国中に引いたことでサラハ全土にはいつだって最低限の食べ物や飲み物があり、緑も育つ。となれば、誰しも刺激はないが穏やかな暮らしを送ることが可能だ。砂漠という厳しい環境の中でもみな平穏を当たり前に享受して生きている。  それは次期国王と名高い王子、マリック・ル・サーラも同じであった。  生まれながらにして選ばれしもの。サラハの民であることを示す褐色の肌に、王家を象徴する群青の髪。見るものを虜にする碧い瞳は、サラハでは決して見ることのできない海を思わせる。整った目鼻立ちに均整のとれた体つき。甘い声色を兼ねそろえたマリックは、王や王女はもちろんのこと、周囲の大人たちから甘やかされて育ってきた。兄弟もおらず、親戚に年の近い子供も生まれなかったため、年々その状況に拍車がかかった。外の世界を知らず、すべてを意のままにできた彼は傲慢で傍若無人。気に食わないことがあれば腹を立て、騒ぎ、時には殺さぬ程度に制裁を加えることもあった。  マリックは満たされた生活にどこか不満や退屈を感じていたのかもしれない。  そんな彼の人生を変えるできごとが起きたのは、サラハに長い長い夏が訪れた日のこと。  マリックの興味を引きつけたのは、とある旅商人の噂だった。 
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-22
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サムシング・フォー #1-2
 マリックは早速ミアを王宮へ連れ帰った。正しくは拉致か誘拐だと罵られるべき行動だったが、民たちにとってマリックは特殊な立場だ。それらはたちまち一種の婚約儀式あるいは運命の恋愛物語として昇華された。  呼びつけた駱駝車にミアを押し込め、隙間風すら許さぬようにきっちりと荷車の扉を閉める。直後、マリックは二十年の人生において今日は最も素晴らしい日だと実感した。 ――したはずだった。 「おい、なぜそんな不満そうな顔をする」  王宮につき、ミアに侍女をつけ、風呂に入れ、着飾らせ、自分の部屋へと連れて来させたところまではよかった。  だが、肝心のミアがそれはもう大層な困惑と悲哀、そして怒りをマリックに向けたのである。 「なぜ、このようなことを」  ミアは最小限の言葉で不平を口にした。  ミアは美しいだけではなく、聡明で勇敢だった。  だからこそ、権力にたてつき、マリックの機嫌を損ねてしまっては命がなくなってしまうことも理解している。しかし、だからと言って黙っていられるほど自分を卑下してもいない。ミアはまっとうに自分を大切にする方法も知っている。  彼女の批判はそれらを包括した口ぶりであった。  残念なことに、マリックのほうがそこを理解していなかった。自分に言い寄られて嫌がる女性などいないと信じて育ってきたし、自分の思い通りにならないことなどこの世にはないと疑ってこなかった。  だから、彼はミアの言葉の裏側を察しようともしなかった。 「お前のことを気に入ったからだ」  あっけらかんとマリックは言い放つ。さらには、なるほどこの女は俺を前にして緊張しているのだなと、勘違いすることで自身の心
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-23
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蒼鋼のカナリア #1
 大陸を南下したところに砂と岩に囲まれた小さな国がある。  照りつける太陽の熱で暖められた土地は水分を蓄えることができず、緑などほとんど見ることができない。  通常ならば人が住めるような環境ではないそこに国が生まれたのは、ある鉱石が採掘されたからだ。  鉱石の名は『蒼鋼』という。  美しくきらめく蒼の石は研げば細くしなやかな剣やナイフとなり、磨けば空を思わせる宝石となった。夜には星の輝きを蓄えて人々を照らし、昼間には凪いだ海のように生きるものを癒す。  不思議な力と魅力でもって多くの人を魅了した鉱石は瞬く間に大陸に広まった。  一方で、蒼鋼には国をひとつ作ってしまうほどの採掘事情があった。  蒼鋼はとある洞窟の中でしか採掘されない。大陸中どこを探しても他の地域では決して見つからなかったそうだ。さらには蒼鋼が採れる唯一の洞窟内にはガスが充満していた。このガスは人に悪影響を及ぼした。採掘できねば人々の生活に支障がでるが、採掘を続けると死者がでる。残酷な天秤を保つためには、そこに国家を築いて人を集め、流動的な採掘部隊と計画でもって管理するしかなかった。  こうして作りあげられた国は一時、栄華を極めた。  しかし、加工技術が進み、蒼鋼に頼らずとも他の鉱石で事足りるようになると、国は当然衰退を始めた。もともと人が暮らすには不便な土地だ。次第に人は減った。残った数百人の人間を国が徹底的に統治し、囲いこんで外へ流出させないことでなんとか国としての体面を保っているにすぎない。  そして今、国は蒼鋼の採取にあたっても特別なルールを設けている。  蒼鋼を採掘するのは十年に一度だけ。採掘に行けるのは十歳から十五歳までの少年少女、それぞれひとりずつ。選ばれしものには特権として自由が与えられる。すなわち、国外逃亡を許す
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-24
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蒼鋼のカナリア #2
 出発の日はすぐに訪れた。  そもそも準備は国の衛兵と医師による身体検査と家族や友人たちとの送別だけ。それ以上何かを待つ必要もなければ、現実問題として十年分の国益が尽きかけている状況で悠長にもしていられない。そんなわけで、最低限の出立の儀を済ませたふたりはカナリアに選ばれてから三日と経たずに国を出ることを決めた。  出発の日の朝。  採掘に必要な道具と一生を暮らして余りある金がシュヤに、採掘が完了するまでに必要な食事や水、寝袋などの生活用具はマリに渡された。  多くの人に見送られ、シュヤとマリ、幼馴染の少年少女の旅が始まる。  国から一歩も出たことがない子供たちはまず果てしない砂地に目を剥いた。  視界に見えるのは砂の灰がかった淡い黄褐色か空の青のみ。人の姿もなければ建物や動植物など見えるはずもない。同じ景色がどこまでも続く。あえて違いを探すならば、ところどころに転がった大きな岩の形や模様くらいだろうか。それも気休め程度だが。 「なんだか、ずっと同じ場所を歩いてるみたい」 「そうだね。目印もないし」  掴めない距離感に戸惑いと不安を感じながらもシュヤたちは衛兵から言われた通りに足を進める。国から洞窟までの距離は子供の足でも三日ほど。午前中は東から昇る太陽を右手に真っ直ぐ進み、午後は歩けるところまで歩く。日が沈むとすぐに暗くなるので、陽が西へと傾き始めたら寝床を準備する。絨毯を敷きテントを立てるだけだ。後は食事と暖を取って寝るだけ。これがもしも雄大な冒険譚ならば三日間の旅路の中で恐ろしい獣に遭遇してしまったり、嵐に見舞われたりするのだろう。しかし、これは冒険譚ではない。洞窟まで続く砂丘には獣もおらず風も穏やかで、野営をしたことがないシュヤ達にもやさしかった。  シュヤとマリは大人たちの言いつけをきちんと守り、一日目を難なく過ごした。&
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-25
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蒼鋼のカナリア #3
 三日目、夕暮れの迫る砂丘。本来であればテントを建てるべき時間だが、シュヤとマリはまだ歩いていた。  目的の地、蒼鋼の採掘場が見えていたからである。 「あれだ……」  突然砂地の中に現れた大きな岩山は蜃気楼の奥、まるで水面に島が浮いているように見えた。逆光で黒くそびえるそれは今にもシュヤを飲み込まんとしている。くっきりと浮かび上がるゴツゴツとしたシルエットは、なだらかな砂地と果てのない空だけが続いている世界には到底似つかわしくない。そのせいで洞窟だけがこの世から切り離されているようにも思えた。  洞窟の奥から風の吹き抜けてくるような音が聞こえ、シュヤたちは足を止める。  互いに顔を見合わせれば、そのどちらの顔にも緊張と不安、喜びと興味が読み取れた。 「ついたね」 「うん、ついた……」  洞窟内にも獣はいないと聞いている。そもそも、洞窟の中には人体に影響を及ぼすほどのガスが充満しているのだ。長時間中にいて生きて出られるものはいない。わかっているのに、それでも少しの恐怖が足をすくませる。  ふたりの背後には夜が迫っていた。  朝になってから洞窟の奥へ進むべきか、それとも、今中に入ってしまうか。  シュヤが迷っているとマリが先に一歩を踏み出した。 「中に入ってみない? 危険を感じたら引き返せばいいし、そうじゃないなら採掘は一日でも早いほうがいいでしょ?」  マリの言うことは正しい。国ではみんなが新たな蒼鋼を待ちわびている。国益はいつ底をついてもおかしくない。シュヤたちだって採掘が終われば自由になれる。まだ食料は潤沢にあるし、休むのは採掘が終わってからでもいい。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-26
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蒼鋼のカナリア #4
 朝、シュヤは異変に気づいた。  喉の渇きからくる痛みを覚えて目を開けると、隣で眠っていたマリがなにやら苦しそうに下腹部を抱えて体を丸めていた。 「マリ? 大丈夫?」  慌ててマリの背をさすると、マリはくぐもった声で歯切れ悪く答えた。 「……月のものが……きたかもしれなくて」  体が重くてだるい。下腹部に石でも入ったかのようにずんと鈍痛がある。途切れとぎれにマリは症状を打ち明けた。まだ出血が始まったような感覚はなく、少したてばよくなるだろうとマリは続ける。 「何かしてあげられることはある? 欲しいものとか、して欲しいこととか」 「ううん、大丈夫よ。それより、早く、採掘を始めなくちゃ……」 「そんな! 採掘は俺がやるから。マリは寝てたほうがいい」  必死に体を起こそうとするマリをシュヤは制止する。だが、マリは首を縦には振らなかった。シュヤの制止を振り切って上半身を無理やりに起こす。 「マリ!」  シュヤが非難の声をあげるも、マリは聞かなかった。 「みんなの役に立ちたいの」 「無理しちゃダメだ。ここに来るまでもマリは充分頑張ってたんだし、採掘は俺だけでもきっとやれるよ」 「私が言うみんなの中にはシュヤも入ってるのよ?」  空のように青く澄んだ瞳がシュヤを映す。意志の強さが宿った瞳が。 「蒼鋼は最低でも子供くらいの大きさだって。そんなのひとりで採掘してたら、きっと日が暮れちゃうわ。ここに長くとどまれば、シュヤだって体調を崩す
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-27
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蒼鋼のカナリア #5
「……どういう、こと」  シュヤの抱えていた荷物がドサリと音を立てて落ちる。硬質な床と採掘道具がぶつかって派手な音を奏でる。よく見れば床も青く輝いており、蒼鋼が所々に埋まっているようだった。 「マリ、これ……」  シュヤはいつ振りか、明るい場所ではっきりとマリの姿を捉える。  マリはなにかを理解したような、しかし、それが受け入れがたいものであると言いたげな、複雑な顔で蒼鋼を見つめている。泣きそうなのにどこか嬉しそうでもあって、悲しみを抱えているのに祝福を受けたようでもあった。  その瞳の青は、蒼鋼と同じ色をしていた。  いや、瞳だけでなかった。今や毛布を握りしめている手にも、毛布の下から覗いているマリの足にも青い斑点が浮かび上がっていた。  シュヤの全身にゾッと寒気が走ると同時、マリはふっと笑った。 「……どんどん、体が重くなっていくの」  口がうまく動かないようだった。マリはいつもより小さく、震える声で呟く。 「暗くて、よく、わからなかったけど。今、わかった」 「マリ、やめろ」 「シュヤが、採掘者で」 「マリ!」 「私が……」  カナリア。三か月に一度国へやってくる商隊の話によると、それは自由を象徴する鳥である。金の羽を持ち、美しい声で鳴くらしい。熱と風と砂しかないシュヤたちの国には存在しておらず、誰も本物を見たことはなかった。自由とは対極にある国での憧れであり、夢がカナリアだ。  だから
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-28
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サムシング・フォー #1-3
 マリックは、ミアの語りが止まったことで自らが泣いていることに気づいた。プライドの高いマリックにとって人前で泣くなど言語道断。じっとマリックを覗きこむミアの視線から顔を背け、必死に袖口で目元を拭う。気品あふれる王子の仕草からかけ離れた乱雑な動作であったが、ミアに涙を見せるよりはよかった。かっこ悪いと思われたくない。こんなことでとマリックはふてくされたくなる気持ちを抑え「ふん」と鼻を鳴らしてごまかした。  マリックの予想に反して、ミアは初めてマリックに自然な笑みを見せた。かすかだが、そこには愛情にも似た柔らかさがある。 「マリック王子も涙するのですね」  からかうというよりも、そのことを慈しむような、噛みしめるような響きだった。 「べっ、別に泣いてなどいない! これはただ目にゴミが入っただけだ! この国は砂が多いのでな! 風が吹くと目が痛くて困る!」  マリックは羞恥を隠そうと大きな声で早口にまくしたてる。ミアはそれを聞いてやはりささやかに口角を上げただけで、 「あら、そうでしたか。それは失礼いたしました」  とそれ以上の言及はやめた。  マリックもこれ幸いと話の続きをせがむ。子供のような行為だが、泣き顔を見られて動揺しているマリックは当然気がつかなかった。 「で? その後はどうなったのだ? そのシュヤとかいう男はどうなった?」 「そうですね。その後はこう続きます。蒼鋼になってしまったマリを洞窟の最奥へと飾り立てたシュヤは、少女だった石を集めて洞窟を去ります。マリの死を無駄にしないために、シュヤはそうするしかなかったのです」  シュヤがそこでマリを抱えて帰ったり、蒼鋼を採掘することを辞めて逃げ出したりしては、マリが蒼鋼となった意味がなくなる。それはすなわち、マリという存在を否定し、穢してしまうことであった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-29
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サムシング・フォー #1-4
 蒼鋼を求めたマリックが国へ到着したのは、ミアと別れてから七日が過ぎたころだった。  道中は砂と空、時折現れるオアシスしかない。目的地までの旅路はマリックにとって今までにないほどの退屈と孤独を与えた。行程の半分にも満たないあたりで投げ出し、国へと帰りたくなってしまったほどである。  なんとか耐えられたのは、純真なマリックが持ちえる未知なるものへの興味関心とミアへの思いが少々、自分自身のプライドが少々。そして、彼に仕える従順で聡明な者たちのおかげであった。  出来るだけ速く馬や駱駝を走らせた者、マリックを退屈させまいと下手な踊りを踊ったりカードやチェスで楽しませたりと娯楽を与えた者、砂漠の真ん中でも王宮と同じ食事を作った者、水や食料やあらゆる雑貨を持つ者。つまり、同行した従者全員に功労賞が贈られてしかるべきだと後に語られるほどの旅路であった。  かつて蒼鋼により栄えていたという国の門前に下ろされたマリックはそんな従者たちの努力など当然知る由もなく、しかし、彼らがいなければ自分はどうなっていただろうかと思いを馳せられる程度にはなっていた。マリックは珍しく彼なりの不器用さで従者らにぼそぼそと「旅も悪くなかったな」などと労いともつかぬ感想を述べた。  マリックは慣れない感謝から来る気恥ずかしさをごまかすように国の門戸を叩く。が、白と淡黄色の砂を塗り固めてできた大きな門はノックの音を簡単に吸収してしまう。 「おい! 誰かいないのか! 誰か! 俺はサラハの王子、マリック・ル・サーラであるぞ!」  マリックが大声をあげると、門の向こうからかすかな物音が聞こえた。砂を削るようなザリリとした足音である。 「おい! いるなら門を開けよ!」  しびれを切らしたマリックが言いながら門を思い切り蹴りつけると、呼応するように門戸が開いた。  マリックの前に姿を現したのは、骨と
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-11-30
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サムシング・フォー #1-5
 蒼鋼が採れなくなったにも関わらず残された国民が生きながらえているのは、わずかに残った蒼鋼を大切に切り売りしていたからだとシュヤは町を歩きながら教えてくれた。  マリックが町中に転がる死体から目を逸らすと、その視線の先には死にかけている子供や老人が目に留まる。先ほどからその繰り返しだ。この国についてからずっと。サラハとここではあまりにも生活が違う。嫌でも分からされる。今この国から蒼鋼を奪えば、今度こそここの人間はみな飢え死にするだろう。さすがのマリックとて、自分のせいで死人が出ては目覚めが悪い。  サラハでは、マリックの前を横切った人間を衛兵に捕まえさせ、蹴りの一発でもいれろと指示してきたが、それはその程度で人が死なないことを理解していたからこそ当たり前にできたのだ。だが、死臭漂う町を目の当たりにしては、そんな気すら起こらない。仮にそんなことをすれば、命ひとつなど軽く弾けてしまいそうである。  しかし、サラハでもそうだったのだろうか。マリックは、もしや自分はそれくらいのことを当たり前にしてきてしまったのではないかと自身に問うた。  彼らの虚ろな目に見つめられると、そんなことばかり考えてしまう。  マリックは自らの凄惨な行いに少しの罪悪感を抱き、しかし、プライドを守るために余計な考えを薙ぎ払う。  と、シュヤが町の一角、大きな井戸の前で足を止めた。 「蒼鋼はここに残っているものですべてです」  言いながら、シュヤは井戸の蓋を何度かくるりくるりと回した。どうやら簡単に盗まれないよう細工されているらしい。何度か井戸の蓋を回し終えたところで、シュヤは蓋を持ち上げた。  井戸は浅く、水ではなく蒼鋼が点々と星屑のように輝いている。ほとんど底をつきかけていて、微々たるものだが人を魅了するには充分だった。 「これが……」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-01
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